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東京高等裁判所 昭和29年(う)1728号 判決 1954年12月03日

控訴人 被告人 森下実夫

弁護人 植月浅雄

検察官 入戸野行雄

主文

本件控訴はこれを棄却する。

当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は弁護人植月浅雄提出の控訴趣意書記載のとおりであるからここにこれを引用する。これに対する当裁判所の判断は左のとおりである。

同第二点について。

論旨は、原判決によるも、被告人は本件において山鳩に発砲したが、これを現実に捕獲した事実は認定されていないのにかかわらず、原判決が狩猟法第五条第六項を適用処断したのは失当も甚しい、と主張するものである。按ずるに、同条項に「前二項ノ期間内ニ非ザレバ狩猟鳥獣ヲ捕獲スルコトヲ得ズ」と規定されていることは、まことに所論のとおりであるが、この規定は同条第四項及び第五項において狩猟鳥獣の保護蕃殖のため狩猟免状及び狩猟登録票の有効期間を定め、あるいは狩猟鳥獣を指定してその期間以内において更に一定の期間を限定して狩猟をなさしめることとし、その期間以外においては狩猟行為を禁止した趣旨を承けた規定であつて、狩猟鳥獣を捕獲することを得ずとあつても、その趣旨は許可された期間外においては現実に狩猟鳥獣を捕獲する場合のみならず、一般に狩猟行為をも禁止するにあるものと解するを相当とする。したがつて、たとえ被告人において本件猟銃を発射し、現実に山鳩を捕獲しなかつたからといつて狩猟法第五条第六項違反の罪責を免れることはできないものといわなければならない。畢竟論旨は理由がない。

(その他の判決理由は省略する。)

(裁判長判事 花輪三次郎 判事 山本長次 判事 栗田正)

控訴趣意

二、原審判決は法則を曲解して為された失当がある。

弁護人が上陳する控訴の趣意が仮りに容れられないとするも、原審判決は「云々山鳩に向つて発砲して鳥獣捕獲の方法を行い以て狩猟の期間外に鳥獣を捕獲したものである」との事実を確定し、狩猟法第五条第六項の法条を適用して処断されている。原審判決によつても本件に於て山鳩に発砲したが、これを現実に捕獲した事実そのものは認定されていない。然るに法第五条第六項を適用されたことは失当も甚しい。なぜなら同項は「前二項ノ期間内ニ非ザレバ狩猟鳥獣ヲ捕獲スルコトヲ得ズ」とあり、ここに捕獲とは現実に人の支配下に置くことを意味することは文理上明々白々であるが、立法の精神からしても、狩猟鳥獣保護繁殖の為めに設けた同条第四項五項である。されば現実に捕獲しないなら立法の目的は達せられるのであるから、たとへ鳥獣に向つて発砲した事実があつても獲らなければ罰するの要はないのである。要するに捕獲未遂は罰するの要はないのである。かかるが故に法は未遂罪に関する規定を置いていないのであると弁護人は相信ずる。然るに原審は山鳩に発射しただけで山鳩を捕獲したりとする何等の証拠がなく、現実に捕獲してないのに同項による狩猟鳥獣を捕獲したとし有罪の判決をされたのは罪とならない行為を罪ありとされた失当があると弁護人は確信する。若し此点に関し原審判示の如き判例が先きにありとするなら此際これを変更されて然るべきものと上陳します。

(その他の控訴趣意は省略する。)

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